11月のある日、雨あがりの午後。茅ヶ崎駅からバスに乗ってやってきたのは、いっせいに咲き誇ったシクラメンが一面に広がる横山さんの農園です。12月のシーズン到来に向けて出荷の準備を進める横山さんに、お話を伺ってきました!
まず、シクラメンのハウスのなかにおじゃましました。
金魚みたいな赤やうすい桜色、紫がかったピンクでふちが白いもの、いろんな種類のシクラメンが広いハウスいっぱいに並んでいます。そんなハウスがいくつもあって、見渡す限り、シクラメン!なんと全部で4000鉢もあるんです。なかには珍しい八重咲のシクラメンもありました。横山さんのオリジナル品種なのだそうです。
シクラメンは地中海原産の花で、日本ではもともと高冷地で栽培されていたけれど、今はここ茅ヶ崎のように温暖なところでも栽培されているそうです。
シクラメン栽培の流れは、11月に種をまき、鉢に定植させて、翌年6月くらいから手入れを始めて、12月前頃から出荷になります。横山花園では「周年栽培」といって、一年中出荷できるようにするため、シクラメン以外にも桜草やクリスマスローズなどの花も栽培しています。シクラメンよりも小さい桜草は、1万鉢を栽培しているそう。ちなみに、シクラメンはサクラソウ科なんだそうです!知っていましたか?
みなさん、「シクラメン」と聞くと、濃い緑の葉っぱに囲まれて、真ん中に赤やピンクや白の花がきゅっとかたまって咲いている姿を思い浮かべるのではないでしょうか。私が今までにお花屋さんで見たどのシクラメンもそうでした。もちろん、横山さんのビニールハウスのなかに並ぶシクラメンたちもそうでした。
でも!この姿、シクラメンが自分で勝手にそうなるわけではないのだそうです。野生のシクラメンは花がきれいに真ん中にかたまらずにバラバラの方向に伸びていくのだそう。ではなぜ、売られているシクラメンがあのような姿をしているのかというと、シクラメンが成長する間、農家さんがずっとこまめに形を整えているからなのです(!)。この、シクラメンの形を整える作業は「葉組み」といって、農家さんたちによって、昭和50年くらいから行われているそうです。
横山花園では、葉組みは主に横山さんのお姉さん、奥さんとパートのかたが行うそうです。ちょうどこのときも、ハウスの中にずらっと並ぶシクラメンを3人でどんどん整えていらっしゃいまいした。
私も葉組みを体験させてもらいました!......あれ?見ていると簡単そうにちゃっちゃっと手を動かされているのですが、いざやってみると花や葉をどう動かしたらいいのかわかりません。花のほうはまだ、真ん中に寄せれば良いんだよね、と思えるのですが、葉っぱのほうはどうしたらいいのかさっぱりです。
「慣れてくると、この葉はこっちに寄せたほうが綺麗な並びになるかな、とか、ここにつぼみがあるから上にあげてあげよう、とか、わかるようになるんですよ」
横山さんはそう言いながら、てきぱきと次々にシクラメンを整えていきます。
葉組みの作業が始まるのは、なんと夏前から!まだ花が咲いていない状態の鉢の葉を外側へ寄せて真ん中を空けて、そこにプラスチックの輪をはめ込んで、花が咲く場所を確保します。それから花が咲き出荷できる12月ごろまで、シクラメンが成長しては整え、成長しては整え......の繰り返し。シクラメンにそれほどまでに時間と手間と愛情がかけられていたなんて、びっくりしてしまいました。ちなみに、シクラメンのように形を整える花は他には無いのでは、とのことでした。そう考えるとシクラメンはお花界のお姫様ですね~。
「横山花園のシクラメンの特徴は、葉っぱの数、厚みと大きさが良いと言われます。やっぱり品質の良いもの、持ちの良いものを作りたいと思っています」
ハウスのなかには、シクラメン栽培の工夫がたくさん詰まっていました。
まず目に入るのは、『ハウスカオンキ』と書かれた大きな機械。加温機、ということは......
「日中の温度を高くしてしまうと葉が柔らかくなって、持ちも悪くなってしまうので換気を良くします。夜は逆に、ボイラーで暖かくするんです。すると咲くタイミングを合わせられるんですよ」
なるほど、あの大きなボイラーは夜に活躍するんですね。
シクラメンの鉢の下を見ると、銀色のシートが敷かれています。
「シクラメンの葉は光の方向に伸びていく性質があるので、日光を反射するシートに向かって葉が下に向かおうとするんです。すると、葉の全体のシルエットが丸くなるんですよ。このシート、敷いたばかりだとサングラスが必要なくらい日光を反射するんですよ」
形を整えるための銀色だったとは!このシートといい「葉組み」といい、お店に並ぶシクラメンの姿は農家さんが作り出したものなんですね。シートの上に置く鉢と鉢の間隔を空けているのは、徒長(日照不足などが原因で通常よりも長く弱々しく生長してしまうこと)を防ぐためだそうです。
お話しながら、横山さんがたまにシクラメンの花を摘んでいます。せっかく咲いた花を、どうして摘んでしまうんですか?と伺うと、
「雨や湿気が原因で、しみが出来てしまった花は摘むんですよ」
摘んだ花を見せてもらうと、よーく見ると、確かに小さく色の違うところが見えます。でも私が見ると模様のようにも見える、気にならない程度のもののように思いました。それを、横山さんは素早く見つけてピッピッと摘んでいきます。
「枯れた葉はすぐに取り除きます。雨が降ると、カビも怖いんですよ。枯れた葉にカビがついて、映画『風の谷のナウシカ』に出てくる胞子みたいになって、まわりもみんなカビちゃうんです」
「そのカビの防止に、納豆菌が効くんですよ。粉状のものをばーっと撒くんですけど、人間にかかっても安全だしね」
なんと、納豆菌ですか!納豆が人間の体に良いのは有名ですが、シクラメンにも良いことをしていたとは驚きですね〜。
「あ、(水が足りなくて)しおれちゃってるね」
たくさんあるハウスのうちのひとつに足を踏み入れると、横山さんが何気なく言いました。私が「大丈夫ですか?」と聞くと、
「これくらいはまったく問題ないですよ。根が乾くのは元気な証拠です。しおれないように、とやたらに水をあげすぎても、弱いヤツに育ってしまう」
うーん、やっぱり農業は子育てに通じている気がします。
「今から(しおれたシクラメンの)鉢の下に水を流す方法で水遣りをします」
そんな水遣りの方法があるんですね。ホースを使って、シートの上に水を流していきます。土の上から水を遣るほうが難しいそうです。こちらは、軍手の先をホースにつけて、「1、2、3」とカウントしながら水遣りをします。軍手の先を取り付けるのは、水が一気に出ないようにするため。カウントをとるのは、量を調節するためだそう。横山さんが鉢の様子を見ながら、「この鉢は1、その隣は2」というように指示していくそうです。
「水遣りは本当に難しいんです」
4000鉢あるシクラメン全部に水を遣ると2時間くらいかかるため、時間差で先に遣った鉢が乾いてしまうこともあるそうです。
「土が乾いたら、つまりシクラメンが欲しがったらあげるようにするんです。水はけを良くして、なるべく水を遣るタイミングを揃えられるようにしています」
土にやしがらなどを入れる、吸水シートを使うなど、水はけを良くするために様々な工夫をされていました。水はけを良くすることは、根を良くすることにもつながるのだそう。
横山さんは、同じハウスのなかでもどこが乾きやすいか、乾きにくいか、違う品種だとどうか、すべて覚えているそうです(!)。その記憶をもとに水遣りの量を決めているそう。
「植物は喋れないですからね。しおれるとか、成長が遅いとか、そういうことでしか表現できないでしょう。でもそういう現象があらわれたときは、もう手遅れなことも多い。植物が生きているということを忘れちゃいけないなと思います」
「それからね、病気だと思ってハウスの外に捨てたら、その捨てておいたところで成長していたことがあるんです。植物の力はすごいんですよ。人間には計り知れないところがある」







