茅ヶ崎と映画

茅ヶ崎オールロケの映画を知っていますか?昨年公開された「3泊4日、5時の鐘」。この映画に関わった人や場所をひも解いていくと、茅ヶ崎と映画の関わりが見えてきます。


オール茅ヶ崎ロケ映画「3泊4日、5時の鐘」

北陵高校出身、三澤拓哉監督

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© 和エンタテインメント

映画の風景の中に自分の知っている場所が出てきたり、エンドロールに友人の名前を見つけたり。「私のまち」が舞台となった映画には、ストーリーや映像そのものだけではない楽しみ方があります。

オール茅ヶ崎ロケの映画「3泊4日、5時の鐘」は、まさに茅ヶ崎に住む人それぞれに、色々な想いを届けてくれる映画です。

世界の様々な映画祭にも参加し、第3回シロス国際映画祭では、「最優秀作品賞」を受賞、第5回北京国際映画祭では注目未来部門「最優秀脚本賞」を受賞した作品です。

オール茅ヶ崎ロケ、ということ以上にこの映画が茅ヶ崎らしいのは、この映画の脚本、監督でデビューした三澤拓哉監督が、茅ヶ崎とは切っても切れない関係であるということ。茅ヶ崎北陵高校卒業、高校時代はもちろん茅ヶ崎でよく遊び、大学生になってからもアルバイトをしたり、茅ヶ崎の4大祭「湘南祭」では当時バンド出演していた行きつけのお店が出店、その手伝いをしたりもしたそうです。


三澤監督舞台は茅ヶ崎、茅ヶ崎市も全面協力

日本映画とも深い関わりのある茅ヶ崎の老舗旅館、茅ヶ崎館。三澤監督の通っていた日本映画大学に5代目当主の森浩章さんが授業のゲストスピーカーとしてやってきたのが奇跡的な出会いでした。監督にとって茅ヶ崎といえば出身校があったり、親戚も多く、そして日本映画の巨匠、小津安二郎監督が定宿としていた茅ヶ崎館の当主の話とあって、その授業を受講していなかったにもかかわらず、授業にモグり、名刺交換までしたといいます。

その後、インターンとして働いていた映画製作会社で企画を練っている際、茅ヶ崎館の存在を思い出し、当主の森さんにアプローチ、茅ヶ崎館での撮影が実現したというわけです。2014年の6月に連絡を取り、7月には撮影を開始したというからそのスピード感には驚きです。撮影地が茅ヶ崎となったことで、ストーリーにもどんどん茅ヶ崎の要素が盛り込まれていきました。茅ヶ崎市も全面協力、撮影場所の確保やスタッフの宿泊場所(なんと茅ヶ崎公園野球場裏の茅ヶ崎市海岸青少年会館!)の提供などのサポートがあったそう。

監督は、短い期間であったのにもかかわらず、茅ヶ崎でたくさんの人に取材をし、自身の茅ヶ崎での体験も思い出しながら、様々な茅ヶ崎的要素を盛り込み、脚本を磨いていきました。中でも「考古学」の要素や遺跡の発掘のシーンなどがあるのも、監督が北陵高校在学中に校庭から遺跡が発見されたことを元に設定されたものだそう。また、撮影場所の一つである梅田中学校隣の収蔵庫の施設長から話が聞けたこと、そしてその文化財収蔵庫内を実際に見ることができたことで、さらに想像が膨らみ、ストーリーをより深く掘り下げることができたそうです。この「考古学」は映画の中で重要なテーマとなっているので、ぜひ映画を観て、感じてみてください。

© 和エンタテインメント


そこにしかないストーリー

この「3泊4日、5時の鐘」で監督としてのキャリアをスタートさせた三澤監督ですが、日本映画大学進学前は一般の私大で学び、ご両親が教員だったこともあって同じ職業を選択するつもりでした。(お母様はまさに茅ヶ崎市内の小学校の先生だそう!)

それが一転、もともとの映画好きが高じて大学のメディアライブラリーに籠り映画をたくさん観てその面白さを再認識したこと、そして大学4年の時に都内の地域イベントの実行委員会内で俳優、映画監督でもある宇崎竜童氏に出会ったことで映画の世界へ。デビュー作も日本映画大学在学中にインターンとして働いていた製作会社で製作、賞まで受賞と、かなりのスピードでキャリアを重ねています。28歳の爽やかで優しく、素敵なパーソナリティ、きっとそんなところが周りの方たちに伝わり、たくさんのご協力を得て夢を実現させていく力になっているのだと感じました。

初監督作品をご自身ゆかりの地でもある茅ヶ崎で撮影した三澤監督、とどまることなく次のステップへ動き出しています。

「どこにいても同じようなものが溢れ、変わりばえのしない世界になりつつある今、オリジナルなものが存在する場所もまだあります。そういうところに着目して、そこで暮らす人と話したり、その場所をもっとよく見たりしながら、その時に得た“手触り”のようなものを作品に落とし込み、その場所だからこそ立ち上がる物語を作っていきたい。」と三澤監督。優しい語り口からも強い志を感じました。次回作もまた、この湘南エリアから、そこにしかないストーリーを期待しています。

▼「3泊4日、5時の鐘」茅ヶ崎上映情報
劇場:イオンシネマ茅ヶ崎
期間:2016年6月11日(土)〜6月24日(金)予定
電話:0467-57-1000

6月11日(土)15:00の回上映終了後、三澤監督、杉野希妃さん(製作総指揮・出演)、司会に石坂健治さん(東京国際映画祭アジア部門ディレクター/日本映画大学教授)を迎えトークショーが行われます。(※詳細は直接劇場へお問い合わせください。)

 


茅ヶ崎の映画はここから始まった:茅ヶ崎館

茅ヶ崎館と映画

三澤拓哉監督の「3泊4日、5時の鐘」でもco-executiveプロデューサーとして製作に関わった森浩章さん、茅ヶ崎と映画を語る上で外すことができない茅ヶ崎の老舗旅館「茅ヶ崎館」の5代目当主です。

今でこそ、日本映画の巨匠、小津安二郎監督の定宿であったことなどが広く知られていますが、森さんが茅ヶ崎館の運営に関わり始めた2001年頃は、ほとんどその事実は表に出ていませんでした。森さん自身も、小津監督やその作品と茅ヶ崎館が関わりがあることを知ったのも小津監督生誕90年、1993年ごろのことだと言います。

IMG_54531995年に発行された石坂昌三著「小津安二郎と茅ヶ崎館」を読み、その後4代目であるお父様への独自インタビューをして話を聞くにつれ、事の重大さに気づいたといいます。創業明治32年(1899年)の茅ヶ崎館に初めて小津監督がやってきたのは昭和12年4月27日のこと。それからというもの、毎年秋から春にかけての期間を茅ヶ崎館で過ごし、様々な映画の脚本を書いていました。森さんのお父様が7歳〜25歳の頃のこと。お父様の記憶によると、非常に子どもに優しいおしゃれな、あこがれの男性だったそう。

こうした事実に始まり、行方の分からなかった小津監督ゆかりの品々を探し集めたり、各地の映画祭にでかけたり、言い伝えの検証や情報収集を続けて20年。今では全世界からやってくる小津ファンに茅ヶ崎館と小津監督にまつわるエピソードなどをお伝えしているのだそう。小さな頃から茅ヶ崎館が大好きだったという森さん。お父様の話を聞き、実際様々なことが起こった場所で暮らすうち、まるで自分が実体験したかのように感じられるようになったといいます。そして自分以上にこの茅ヶ崎館を知っている人はいない、とも。


これからの映画と茅ヶ崎館

小津監督という日本映画の巨匠だけでなく、現代においても茅ヶ崎館と映画との関わりは続きます。2006年には高田雅博監督、櫻井翔・蒼井優主演の「はちみつとクローバー」の撮影も茅ヶ崎館で行われました。それまで森さんが続けてきた情報収集とその情報発信が実を結び、高田監督が小津安二郎監督の定宿となっていた茅ヶ崎館の存在を知っていたからこそ、撮影が実現したそう。過去のことだけではなく、前向きに文化的な新しい取り組みをしていけば、後世にもそれが事実として残っていく。そのためにも撮影時の逸話やエピソードとしても語り継いでいきたいとの想いもあったそうです。

すき焼き のコピー

写真提供:茅ヶ崎館

「そして父になる」の是枝裕和監督も茅ヶ崎館で脚本を書き、「3泊4日、5時の鐘」の三澤拓哉監督もここ茅ヶ崎館で撮影を行いました。茅ヶ崎館には脈々と「映画」という文化が根付いています。そして茅ヶ崎館は映画や特別な人だけの場所ではありません。お食事だけ、素泊まりや朝食付きの宿泊も気軽に予約を受け付けています。小津監督が宿泊中に好んで食べたという「カレーすき焼き」や監督ゆかりの部屋「二番のお部屋」、様々な映画にも登場する茅ヶ崎海岸も徒歩すぐです。茅ヶ崎館で、あなたのお気に入り映画の「空気感」を感じてみてはどうでしょうか。

▼茅ヶ崎館
〒253-0055 茅ヶ崎市中海岸3-8-5
TEL:0467-82-2003
HP:http://www.chigasakikan.co.jp

 


対談

茅ヶ崎館が映画と関わって約80年、今回三澤拓哉監督がオール茅ヶ崎ロケ映画「3泊4日、5時の鐘」を撮影。この6月からは森さんが実行委員長を務める茅ヶ崎映画祭も実施され、三澤監督の映画も上映されます。映画製作では監督とco-executive producerという関係のお二人の、小津安二郎ゆかりの場所、茅ヶ崎館二番のお部屋での対談です。

 

森:これまでも茅ヶ崎って結構文化・芸能に関わる人がたくさん別荘を持ってたり、住んでたりしたでしょ。市川團十郎から川上音二郎・貞奴、現代で言えば開高健とか。そういう歴史を過去のものにしないで今の人達も茅ヶ崎に来てくれて、しかも新しい作品がここからまた生み出される、っていうのが良いよね。そしてそういう動きが続くといいよね。若い人が出てくれば先輩もいいプレッシャーになるし。(笑)

 

三澤:僕もその流れに加われたら嬉しいです。次回作は大磯を舞台にしようと思っていて、また森さんに相談させてもらっているんですよね。

 

森:一年一作は脚本を書いてほしいなー。いろんな経済的な状況もあるから撮れるかどうかは別としても、作品はコンスタントに作り続けてほしいよね。いつでも人にプレゼンできるようにしておかないと、「刀」が錆びてしまう!

 

三澤:一年一作は、無理ではないペースです。「タイタニック」級の映画を一年で書けって言われるとそれば難しいですけど、小さな物語は作っていきたいですね。

 

 

森:映像を撮るツールはたくさん選択肢が増えて、「撮る」ことは手軽になってきたよね。でもやっぱり単なる「映像」と「作品」の違いは「ストーリー」と「編集」だよね。誰も何も話さなくても、そこにストーリーがあれば作品になる。そういうものをずっと作り続けられる人こそがプロなんだよね。茅ヶ崎館を脚本執筆の場所として利用して下さる監督や作家の方は、いくつもの仕事を同時進行ですごいレベルに仕上げてしまう。

 

三澤:ほんと、すごいです。

 

森:モロッコのマラケシュ映画祭っていうのがあって、そこで「3泊4日、5時の鐘」の正式上映があってさ、偶然三澤くんの隣で是枝監督が観たっていうね。

 

三澤:そうなんですよ。毎年マラケシュ映画祭は「3泊4日、5時の鐘」が招待されたコンペティション部門のほかに一つの国に焦点を当てた上映プログラムを組んでいて、僕が行った年はたまたま日本映画特集だったわけです。日本映画の団長が是枝監督でして。なんだかすごいめぐり合わせを感じました。隣で観ていただいて、上映後にコメントやアドバイスも下さったんですよ。すっごく嬉しかったです。

 

森:公式にもコメント出して下さってるもんね。「俺の、茅ヶ崎館を返せー!」ってね(笑)。三澤くんへの感想として耳に入ってくるのは、なんであんなに女性の感情をリアルに書けるのか、ってことだね。女心っていうか、女性の怖い部分、って言うか。

 

三澤:女性が僕を異性として見ていないから、ですかね。僕がいても女性同士がやりあってるんですよ。普通あまり人前で怒ったりしないじゃないですか。でも僕に対して警戒心がないっていうか、きっと猫ぐらいにしか思われてないんでしょうね。だから僕はこっそり人間観察をしているという。是枝監督も女性同士が言い合うセリフがいい、って言ってくださったんですよ。

 

森:ちゃんとそう言ってくれるのがありがたいよね。

 

三澤:二作目が「勝負」だとも。
今度の茅ヶ崎映画祭上映後のSNSの動きなんかも気になりますね。

 

森:話題になってくれれば良いね。盛り上がってくれれば。

 

三澤:この映画は、観た後に「話せる」映画だと思うんですよね。あいつらわがまますぎだろ、とか何でも。お酒を飲みながらしゃべれる映画だと。今度の茅ヶ崎映画祭の上映だと、初日は15時からで90分観て、終わってちょうど駅に向かっているくらいで「5時の鐘」に遭遇したりすると、現実と映画の世界がすごくシンクロしてくる瞬間になるんじゃないかと。これは茅ヶ崎でしかできない楽しみ方の一つですね。ほかにも撮影場所である美術館の裏のY字路を歩いてみたり、海岸に行ってみたり。知ってる場所が登場する嬉しさ、知らなかった場所を発見する喜びみたいなものを感じてもらえたらと思います

 

森:美術館の裏のY字路はすごく良かったよね。

 

三澤:作り手だけじゃなくて、そのまちに住んでいる人が、映画や芸術に対して積極的に言葉を発するまちになると、自分としては生きやすいですね(笑)。

 

 

森:子どもが映画の話をしたりするのもいいよね。子どもにはいい映画をたくさん見せたいよね。僕自身は映画にたくさん影響を受けて育ったから、子どもたちにはいっぱい空想をして、世界観やイメージを広げてほしいな。映画を見ると気持ちが豊かになるしね。

 

三澤:そういう世代になっていくといいですね。

 

森:映像の世界には、将来性があるし、映画とか文化を通じて、茅ヶ崎は独自に生き残っていくすべを見つけていかないとね。

 

三澤:6月からの茅ヶ崎映画祭で、茅ヶ崎と映画の魅力にハマってくれる人が増えるといいですね。


映画監督 三澤拓哉氏 プロフィール
1987年神奈川県寒川町出身。2006年茅ヶ崎北陵高校卒業。明治大学を卒業後、日本映画大学に進学。在学中より深田晃司監督作の『ほとりの朔子』(13)、杉野希妃監督作の『欲動』(14)、『マンガ肉と僕』(14)等の作品にスタッフとして参加。『3泊4日、5時の鐘』が初脚本・初監督作となる。

茅ヶ崎館5代目当主 森浩章氏 プロフィール
1974年神奈川県茅ヶ崎市出身。地元の鶴嶺高校を卒業後、TCA専門学校で自動車工業デザイナーを目指す。映画監督「小津安二郎」ゆかりの宿という環境の中で生まれ育った影響もあり、家業を継ぐ事を決意。ワーナー・マイカルシネマズ(現イオンシネマ)の販売促進に携わり、企業のサービスを学ぶ。創業118年目の茅ヶ崎館 五代目 代表取締役。地域の文化事業の立ち上げなども行っている。茅ヶ崎映画祭 代表、茅ヶ崎の文化景観を育む会 事務局、湘南邸園文化祭 副会長。

 

2016年6月1日から、映画を通じて街と人が繋がり、茅ヶ崎で育まれた芸術や文化を伝えるべく、「街と人が繋がる、手づくりの映画祭 茅ヶ崎映画祭」が開催されます。今回対談して頂いた森さんは実行委員長として、三澤監督は映画の作り手として参加しています。

茅ヶ崎映画祭では、茅ヶ崎館はもちろん、飲食店や美術館など茅ヶ崎市内10箇所で映画の上映が行われ、茅ヶ崎市内唯一の映画館「イオンシネマ茅ヶ崎」で茅ヶ崎関連作品として三澤監督の「3泊4日、5時の鐘」、是枝裕和監督作品の「海よりもまだ深く」が同時期上映されます。 ぜひこの機会に、街へ出て、想いの詰まった映画上映を楽しんでみませんか。きっと、茅ヶ崎の街と人、映画の魅力が伝わってきます。そして、映画を通じた新しい出会いも。

 

茅ヶ崎映画祭

第5回茅ヶ崎映画祭
期間:2016年6月1日(水)〜18日(土)

茅ヶ崎映画祭ウェブサイト
http://chigasaki.cinema-festival.com/

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